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新宿エイサー新虹(あらぬーじ)、はいさい!


本紫のサージの下から汗が吹き出てくる。初めて巻いた頭の飾り『サージ』の色は特別に感じられてしまって、僕は紫色に踊らされる素人の演武者のようだった。いや、実際に今日初お披露目をする素人の演者だけれど。
中野ゼロの『プレリュード』には僕たちの演奏演舞を見るために多くの人が足を運んでいる。僕の友達はもちろん昔働いていたバーのママも来ていて、さっきの休憩時間にトイレで言葉を掛けられた。楽しみにしてる。柔和な表情で僕の肩を叩くママから逃げるように僕はその場を立ち去った。
頬に伝う汗を僕は手甲で拭う。真新しい手甲は汗を吸い取ってくれずに、ざりざりと頬を引っ掻くだけだった。暑くないのに汗が出るのは高校の学園祭以来だ。あの時も大勢の人の前の発表で、手が汗で滲んだっけ。右手に持ったバチが滑らないよう、僕は打ち掛けで震える手を握った。割れんばかりの拍手で、僕は前の団体の演奏が終わったことに気が付いてはっとする。中野ゼロにどこまでも響く拍手の音よりも、かさりと音を立てた打ち掛けの金色の袖が僕には気になった。次は僕たちの番、次は僕たちの番。心臓の鼓動が気管を圧迫するようで胸が苦しい。緊張して痺れる右手にバチを持たせ、僕たちは息を飲む。隣で先輩が僕の顔を見た。いつも通り。その顔にはそう書いてあった。

エイサーは面白い。
そう思うきっかけをもらったのは、練習から2回目のことだった。いちゅびは二人一組で舞う、初心者には少し高等技術を要する演舞だ。二人の息が合っていないと演者同士でぶつかってしまういちゅびは、練習でも相当な気を使う。『右』と『左』に演舞が大別されているいちゅびは、立ち位置で舞の順番が変わりもする。器用に回る先輩を見る目を白黒させる僕はまんまと初心者の壁にぶつかっていた。
いちゅび小節って元は三人で演舞する用に考案されたんだ、と先輩は言った。「なんで二人用になったと思う?」。僕は、演舞しやすくするため、とつまらない回答を言って先輩を笑わせた。それもある、と先輩は微笑む。「考えてみて」。先輩はそれだけ言ってまた演舞の手本を続ける。僕はそれに合わせるのが手一杯で、それを考えるのを忘れてしまっていた。

眼だけでなく顔であらぬーじの面々を見る。緊張した面持ちの中に余裕がある中堅の先輩たちを見ると、緊張で張り詰めていた気持ちが少し和らぐ気がした。先輩の一人が肩を組んだ。先輩は、大丈夫と僕の鎖骨あたりを殴った。僕は苦笑いして少しだけ痛むそこを撫でながら、拍手の続くゼロホールを見渡した。拍手の中に笑い声と楽しげな話し声。この中に僕たちはこれから太鼓とその身一つでおどり出る。それを思うと怖い気持ちの中に昂ぶる感情が交わるように芽を出す。この気持ちを先輩たちは何度も経験してきたのか。
「いちゅびって沖縄の方言でイチゴって意味」
緊張した面持ちの先輩がつっけんどんに言った。いちゅびは先輩とペアになった。その言葉にぼくの閉塞していた視界が一気に開ける気がした。
「先輩、今、意味が分かりました」
ん、と先輩が返事をするのに合わせて、どん、と大太鼓が鳴る。会場がどよめく。
イチゴって、二人きりで食べたいですもんね。好きな人と。
どん、どん、どん、と太鼓が打ち鳴らされる。客たちの視線をぐっと集めて僕は体の芯から熱が宿ってくるのを身体中で感じていた。手で、足で、体で、心で。昂ぶる感情の中に少しばかりの緊張を載せて僕は、僕たちは叫ぶ。
「いっちんどーい!」
「はいさーい!」

To be continued. -続きは6/30中野ゼロで-




はいさい!
プレリュード初参戦のYです!
今日は新宿エイサー新虹(あらぬーじ)の演舞の一つであり、上の文章にも登場した『いちゅび小節』を紹介します! 難しい演舞ですが、当日は二人組になる我々を見たら『おっ、いちゅび!』と注目してみてください!


エイサーは演舞にばかり気が取られがちですが、全曲歌詞があるんです。いちゅび小節の一番の歌詞はこちらです。

いちゅび小に惚りてぃ座喜味村通てぃ通てぃ通いぶさ 喜名ぬ番所
さー思やが来ん かなしが来ん

おお、よく分からん笑 沖縄訛りは難しい!
これを標準語訳に直すとこうなります。

イチゴちゃんに惚れて、座喜味村通って通って 通いたい 喜名の役所
ああ 思う人が来た 愛する人が来た

沖縄には座喜味(ざきみ)という土地が実際にあります。その座喜味での出来事ですね。イチゴ、とはストロベリーのイチゴ。『いちゅび』とは沖縄の方言でイチゴを意味しているんです。
ここでイチゴとは思いびと『彼』を指しており、主人公はその彼に惚れてしまって座喜味村に通い詰めたんですね。うん、健気。1908年まで存在していたという座喜味村の喜名番所、役所にきっと彼は勤めていたのでしょうか。
その彼が仕事終わりか何かで主人公のところへ来てくれたのです。(この辺の歌詞の解釈はよく分かってません)


聞き流していた曲が実は思いびとへの恋歌だった、それが『いちゅび小節』なのです。
この曲は実は七番まで続くのですが、以降『いちゅび』は一回しか歌詞に出てきません。いちゅび小節は、イチゴ取りに行くことを口実に、イチゴちゃんの元へ忍びに行く曲とされています。しかし七番まで続く長い歌からいろんな解釈ができそうな一曲なのでした。興味が湧いたら調べてみてください。

演舞と太鼓を見てもらえることも光栄ですが!、ぜひ曲も聴いて遠き日の沖縄に思いを馳せてみてください!

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by preludemusic | 2018-06-11 21:17