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合同演奏「水のいのち」ステージノートに代えて

Prelude事務局のDANJUROです。今回のリレーブログでは、合同曲として取り上げる「水のいのち」という合唱曲について、少しお話したいと思います。本題に入る前に、少し日本の「合唱界」のことをお話しましょう。


20世紀の日本を代表する作曲家に、高田三郎という人がいました。クラシックをやっている人でも、もしかしたら知らない名前かもしれません。それほど一般受けするようなポピュラーな曲はないのですが、唯一彼の作品を現代まで歌い続けている、ある音楽勢力が日本にはあります。それが「アマチュア合唱界」です。


小学校、中学校から高校、大学、一般団体に至るまで、日本のアマチュア合唱界の裾野は巨大かつ深淵です。大体の人は学校の合唱部などからその世界に入り、NHK全国学校音楽コンクールなどを経験するうちにすっかり「ヲタク」化していくという、ある種新興宗教的(?)な魅力を持った音楽形態、それが「合唱」です。


個々人の力量もさることながら、同じパートの十何人かで同じような音質の音を出し、それを何層かに重ねあうことで全体としてのハーモニーを生み出す作業。集団行動の得意な日本人にはピッタリの演奏形態だったことや、戦後日本の荒廃した精神をもう一度集めて建て直すのに最適な活動だったことが、日本のアマチュア合唱界を繁栄させる元となりました。


東京オリンピックの行われた昭和39年(1964年)ごろには、そのようなムーヴメントはかなり大きなものとなっていました。ところが、当時はまだ日本人によって作曲された、芸術性を兼ね備えた合唱組曲というのはあまり多くなかったのです。そのような状況の中で、TBSの委嘱によって高田三郎氏が発表した、5楽章からなる堂々たるクラシックの合唱組曲が「水のいのち」でした。


美しい日本語の詩をオリジナルのメロディに乗せ、歌曲としての芸術性と合唱曲としての楽しさ、表現の面白さを兼ね備えた、新しいタイプの歌。当時の合唱人たちにはきっとそのように思われたことでしょう。「水のいのち」は、あっという間に日本中の合唱団体に取り上げられる「メガヒット曲」となりました。1964年の混声版のあと、66年には女声版、72年には男声版も作曲され、3バージョンそろって出版されることは、当時としては異例でした。こうして「水のいのち」は、全国津々浦々、どんな合唱団でも演奏できる合唱組曲となったのです。


現在までに「水のいのち」は、混声合唱版だけでも100刷を超え、今なお、合唱楽譜売り上げの上位に位置しているそうです。音楽評論家の宇野功芳氏は、『クラシックの名曲・名盤』(旧版、講談社現代新書、1989年)の中で、この現象を「前代未聞」と書いているそうですが、一度でもこの作品を歌ったことのある人なら、その理由がお分かりになると思います。初心者でもそれほど難しくなく、また上級者にとっても、深遠な歌の表現を追求するテクストとして最適な作品、というのは、それほど多くないからです。


やがて、この名曲をオーケストラの伴奏で歌いたい、という声が作曲家のもとに届くようになりますが、高田氏はなかなか首を縦に振りませんでした。しかしその最晩年、指揮者・小松一彦からの提案に、高田氏は初めて「やりましょう!」と答えたのですが、それが実現されることはありませんでした。作曲家の死(2000年)後、国立音大教授のT・M・フィービッヒ氏により、初めて「水のいのち」管弦楽版が生み出されました。


2009年になり、高田氏の直弟子である今井邦男氏による新しい編曲版も完成・初演されました。今回のPreludeではこの「今井版」を取り上げています。それは、フィービッヒ版より編成が簡素で、また編成にピアノが含まれていることから、合唱団員のみならず、この曲を知らないオケのメンバーにとっても合奏の練習がしやすい、という理由からです。


これまでPreludeでは、合同演奏として様々な曲を取り上げてきました。昨年も日本の合唱曲のオーケストラ版を演奏したりしましたが、作曲家のご遺族から正式に許諾を取って演奏するのは、実は今回の「水のいのち」がPrelude史上初めてのこと。このイベントが単なる刹那的なものでなく、確固とした実績と構成員に支えられているという確証がないと、なかなか演奏許諾というのは下りないものです。


今回演奏するのは、「水のいのち」の中の終曲「海よ」です。その詩の中にこんな一節がありますので、それを引用しつつ、お話を閉じたいと思います。


  おお、海よ
  絶え間ない 始まりよ
  あふれるに見えて あふれることはなく
  終わるかに見えて 終わることもなく
  億年の昔も 今もそなたは
  いつも始まりだ
  空へ 空の高みへの始まりなのだ


東京プライドパレードの付属的なイベントとして出発したPreludeが、今ではLGBTのクラシック・シーンを牽引する役割として、「空の高みへ」昇って行こうとしています。今回の「水のいのち」の演奏がその嚆矢となるように、出演者、聴衆の皆さんのお力を借りながら、一歩一歩前進していきたいと思います。


どうぞ、本番をお楽しみに!皆様のご来場を心よりお待ちしています。


Prelude事務局 DANJURO
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by preludemusic | 2012-06-29 04:16 | 参加団体から